CHAZEN三昧

アシュタンガヨガと禅のある毎日

野生の呼び声

数日前にジャック・ロンドンの犬のストーリーを柴田元幸さんが選んで訳した「犬物語」という本を借りてきた。その中のひとつの短編だけを、仏教書のチェイサーとして読むつもりだったのだけど、収録されている「野性の呼び声」が気になって思わず一気飲み(読み)。

野性の呼び声。
なんと懐かしい響きだろう。その本は小学生のときから家にあった(昨年断捨離した)けれど、実際に読んだかどうか記憶がない。読んだにしては内容が思い出せず、読んでないにしては愛着がありすぎるのだ。

それを確かめるように読み始めたが、たぶん小中学生の私には読み進めることができなかったと結論した。感受性が強かったそのころは犬が痛めつけられる描写に耐えられなかったと思う。

血なまぐさいシーンは今もなお耐えがたいが、それを凌駕するだけの魅力にあふれた物語であった。犬目線で語られる文章に引きつけられ、主人公の犬バックに感情移入し、嗚咽するほどの感動を味わった。バックの気持ちになりきったとき、もしかしたら私は人間よりも犬に近いのかもしれないという気がした。ともに育ち、あるいはご縁あって触れ合ってきた犬たちとの友情は特別だからだ。

プリミティブに惹かれるのは、私の中の野生が呼んでいるのかもしれない。
文明に飼い慣らされ、鈍って、麻痺したこのカラダの、どこかに潜んでいる太古の記憶がそれを忘れさせまいと呼んでいるような気がする。私は特にそれを感じるけれど、この呼び声は誰の中にもあるのじゃないか。

自然の中で人がある種の感慨を味わうのは、どんな都会育ちの人であっても、もとは(祖先は)その中にあったこと、その一部としてなじんでいた記憶がよみがえってくるからではないか。まぎれもなく同じ空気を吸い、同じ大地に根ざしているひとつの大きな生命そのものだと感じられる。理由を説明できないようなある種のシンパシーを抱くのは、カラダの奥深くに刻まれた原始の記憶が呼び覚まされるからではないか。


ちょうど明日からお山だ。
折しも寒波到来で今日の最高気温がマイナス3℃、明日の最低気温がマイナス12℃だそうだから、ちょっぴり野性を味わうのにもってこい。寒さが厳しさとともにある美しさと清澄を呼び起こしてくれるだろう。

我が相棒は野生味からは遠く離れてしまったけれど......

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ん? あんだって?


ところで、「野生の呼び声」にはドラマティックなシーンがいくつもあるので、誰かが映画化していただろうかとググったら、ディズニーで映画化され、まさに今月末に日本で封切りらしい。予告編を見てみたが、これはアカン。わかりやすくすると本来の味わいは雲散霧消してしまう。もし興味をもたれたら、まず原作を読んでみてほしい。日本語であれば柴田元幸訳はおすすめ。